蜷川有紀展『薔薇の神曲』

 -La Divina Commedia della Rosa-

by Yuki Ninagawa Exhibition



English

蜷川有紀がダンテの 『神曲 地獄篇』 をテーマに、1年半の歳月をかけて岩絵具で描きあげた高さ3m×幅6mの大作「薔薇のインフェルノ」、ダンテの永遠の女性「薔薇のベアトリ―チェ」、地獄での罪を償う「浄罪山」など、赤と青で構成された蜷川の新作をならびに今まで描いた代表作など計78点の作品を展示。会場(25階)から、30mにもおよぶ壁面に映し出されるダイナミックな映像(夜のみ)、31階のアーティストフロア、回廊、アーティストルーム『天女の間』もご覧いただけるなど盛り沢山の個展となりました。

また、VIP VEWING PARTYでは、〝薔薇〟〝ダンテ〟+協賛をしてくださった旭酒造の〝獺祭〟をイメージしたレシピを、 IBM・シェフワトソンが提案、450名のお客様に振舞われ、アートイベントとしても異例の成功を収めました。

会期/2017年5月29日 〜 6月18日

会場/PARK HOTEL TOKYO

主催・ソニー・デジタルエンタテインメント 共催・男子専科
協賛・旭酒造株式会社
協力・WATER SESGHIGN、株式会社なか道、
株式会社ミレジム、株式会社mieuse
特別協力 パークホテル東京
後援・イタリア大使館

 

時空や民族を超えて繋がる意識の“古層”を描きたかった

2年前の夏、いまの時代のことを考えていた。
戦争、災害、テロ、難民、核汚染…………。

いったいどうやってこの時代を生き抜いたらいいのだろうか?
テーブルの上にいままで読んだたくさんの書物をひろげ、ずっと考えつづけた。
そして、一カ月ほどつづいた読書の末、ふっと頭の中に「答え」が舞い降りた。
「ダンテだ!」 「ダンテの神曲だ!」
700年前にフィレンツェを追放され、流浪の果てにダンテが書き上げた『神曲』。
いま、この時代を解く鍵がここに眠っているかもしれない。
この名作がルネッサンスの先駆けになったように
私が描こうとしているものが時空や民族を超えて、
意識の“古層”で繋がってくれることを願っている。

2017.june
by 蜷川有紀

 

 

薔薇の画家・蜷川有紀がダンテの『神曲』に挑戦する!
思いがけぬ飛躍のようにも思える。だが、壮大な薔薇の相を示すあの「天国篇」を大団円とする構成を考えるなら、薔薇の画家のこの飛躍は自然なものとして納得できないわけではない。譬喩と象徴と寓意に満ちたこの恐るべき文学作品に対して、ジョット、ボッティチェリ以来これまで何人もの画家が己が視覚的想像力を賭けてきたが、とりわけドレの作品群がこの試みにおける特権的位置を占めるらしい。なにはともあれ薔薇の画家の渾身の「飛躍」を見守らなければならない。
by 谷川渥 (美学者)

「アルカイクの美」 磯田道史(歴史学者)

薔薇の螺旋の衝撃

蜷川有紀の作品をはじめてみた時の衝撃は忘れられない。
それは太古の絵に近かった。まるで古代のシャーマン、神がかった巫女が一心不乱に体中から湧きあがる描く悦びを、壁面にぶつけて、そのリズムが、いつしか形象をなしている。

そういう絵に久しぶりに出会ったと感じた。感動した。ぼくは子どもの頃、そんな絵を一度だけ、暗闇のなかでみたことがある。それは千五百年以上前の古墳の壁画であった。

ぼくは蜷川にすぐ訊いた。「九州の装飾古墳を見たことがありますか。卑弥呼時代の棺のなかの再生を祈った朱塗りの埋葬をみたことがありますか」。蜷川の答えは「いいえ。見たことはありません」であった。鳥肌が立った。蜷川の描く薔薇の螺旋の連続は、あまりにも千五百年前の古墳の装飾壁画のリズムに似ている。

卑弥呼が愛した真紅の顔料

「まさか顔料は紅辰砂(べにしんしゃ)ではないですよね」。蜷川は不思議そうな顔をして「えっ。紅辰砂ですよ」とこたえた。卒倒しそうになった。紅辰砂は水銀を含む古墳時代の顔料で、卑弥呼はこの真紅を、こよなく愛した。辰砂は水銀だから毒だが、塗れば生体を腐らせない。永遠の命を象徴していた。蜷川はまったく無意識に、この卑弥呼の辰砂を操って、薔薇の螺旋を描いていた。その螺旋の連続は神秘的である。深く落ち込むようにもみえるし、高く昇っていくようにもみえる。

その絵は、すべての物体がこわれ、溶けていくようなさまをみせていた。すべての物事の境界を無意味にするような魅力に満ちていた。ぼくは最初、蜷川の絵は装飾古墳に似ていると思ったが、みているうちに考えを改めた。この絵画はスペインのアルハンブラ宮殿やシャガールやあらゆる太古の美に通底した何かがあるのではないか。

無意識の美

そのとき、アルカイク(Archaïque)という言葉が、脳裏に浮かんだ。フランスのエマニエル・トッドという未来を予見する学者と話し込んだとき、彼が、ぼくに、アルカイクということを盛んにいった。

アルカイクは古態的と訳される。民族によらず人類すべてに通底する太古からの無意識をアルカイクという。太古の無意識には境界がない。2017年の世界は動物には見えない宗教や国家や貨幣が深刻な人類の分断をもたらしている。ところが、蜷川の絵はイタロカルビーノの文学のように、軽々とカミ・クニ・カネを飛び越えている。そこには不気味な既視感がある。自分が生まれる前に見たことがある、と感じる絵である。自分と他人の境目を超え、時空や民族を超えて、無意識という井戸の底で、人間は通じている、と感じさせる絵である。

きっと蜷川の絵は彼女の体内にはじめから存在しているもので、それが勢いあまって、ほとばしり出たものにちがいない。迫りくる薔薇の螺旋のつらなりをみて欲しい。そこにいる生き物の目をみてほしい。その「アルカイクの美」をみたとき、我々の精神のなかの何かが震わせられるのではないか。その震えに遭いたくて、ぼくは蜷川の絵の前に立つ。

 

【Main Graphic】

『薔薇のインフェルノ』”L’inferno di rosa” H300×W600cm 画・蜷川有紀 2016年制作

【PAINTINGS & OBJECTS】

【掛け軸】

【DRAWINGS】

☆メディアに掲載されました。

日刊SPA!: https://nikkan-spa.jp/1342860

新橋経済新聞: https://shinbashi.keizai.biz/phone/headline.php?id=1921

☆アーティストルーム詳細は以下です!
http://www.parkhoteltokyo.com/artcolours/aih/29ninagawa/29ninagawa.html

 


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