– Illustrations &image poem

 

「バラメラバ」の前身となった
「パリ2区イメージ・ポエム」これをベースに準備稿、検討稿、決定稿と修正し深化ていった。イラストレーションももちろん蜷川有紀の作品。

 

Pris2区

蜷川有紀 yuki ninagawa  バラメラバ

月に照らされた川.

あとからあとら手紙が流れてくる。

過去からの手紙が届いた。

男は自分の一部を返して欲しいと云ってきた。

もう20年もたってしまったというのに、

彼はまだ彼の一部に執着していた。

乾涸らびた果実のようなそれ。

追憶という名の黒い鳥と私は夜ごと会話を交わした。

そして、呪われた青春を埋葬しに旅に出たのだ。
   

   

皮の奇妙な形のバックを持ち旅をする女。

か細い雨が女の肢体に絡みつくように

執拗に降り続けている。

たどり着いたHOTELのバスルームで

お湯につかる女。

私はよく眠る。

水の中で眠る。

柔らかな愛が私を満たしていく。

私は赤ん坊をこの身に宿したことがない。

今までもそしてこれからも。

それなのに、私は水の中で

揺り籠の夢を見る。

壊れた揺り籠が置き去りにされている。

女が近づくと、ゆらゆらと揺れはじめる。

女、揺り籠から赤ん坊を抱き上げ

おそるおそる頬ずりをする。

赤ん坊の顔が歪み男の顔に変形していく。

   

蜷川有紀 yuki ninagawa  バラメラバ

   


愛。

私はナルシズムとエロティシズムの違いが分からない。

あの頃、呪われた青春の真っ只中。

男は家具や楽器を愛するように

私を愛した。

そして私は、徐々に家具や楽器に自分を同化していったのだ。

完全なる自己放棄。

それが彼が私に求めたものだった。

20年前の破壊的な愛の現場が、

女の頭をフラッシュバックのように襲う。

苦悩する女。

鳥籠の中に入れられた女が男から餌をもらっている。

瓶詰めにされた女。ETC…
   

   
私はこの街を憎んだ。

この街の喧噪をこの街の静寂を

この街の真昼を憎んだ。

光がすべてを曝け出し。

私を侮辱した。

そして、同時に私はこの街を死ぬほど

愛していたことに今、気づきはじめている。

 

女、PARIS2区をさまよい歩く。

オペラ通り、パッサージュ、石畳の道、

花売り娘や占い師の老女、紳士や淑女や靴磨きの少年…..。

街ゆく人の誰も彼もが、彼女を嘲笑っているかのようだ。

街路樹や蝋人形までもが声を立てて笑い出す。

女、メモ書きを出し道を訊ねる。

やがて、行き止まりに。

そして、とうとう広場に小さな井戸を見つける。

おそるおそる、その中をのぞき込む女。
   
蜷川有紀 yuki ninagawa  バラメラバ
   

過去、現在、未来。

三人の女が私を見つめていた。

愛していた。

愛している。

愛し続けるだろう。ギャハハハハ…..

井戸の中に映った三人の女が笑いながら

彼女を井戸の中に引きずり込む。

滝の中を墜ちていく女。

ながく、永遠ぐらい長く墜ちていく。

   

   

ふと気がつくと女は小舟に乗っている。

新月に照らされながら

船の船頭が女に訊ねる。

船頭「どちらまで?」

女「黒い鳥のいる場所、墓地、私の愛の行き着く場所へ」

船頭「かしこまりました。」
   

   
地下水道を旅する女。

愛が、期待が、次第に彼女を満たしていく。

女、オペラ座近くの泉からヒョッコリと顔を出す。

すっと手がさしのべられる。

しっかりと握りしめられる手。

男が優しく微笑んでいる。

男「ようこそ」

女「お久しぶり」

二人腕を組んでオペラ座に向かっていく。

   

   

男「ところで僕の一部はもってきてくれた?」

女「ええ、もちろんよ」

女にっこりと笑って奇妙な形のバックの中から男の頭部を取り出し

男の胴体の上にヒョッコリと載せる。
   
蜷川有紀 yuki ninagawa  バラメラバ
   
こうして私は20年間保管していた彼の一部を無事返却した。

乾涸らびた果実のようなそれは

そのとたんみるみると蘇っていった。

そして、私の愛も同様に

もう乾涸らびることもないだろう。

私は永久にこの街にとどまるだろう。

【fin】

copyright 2001 Yuki Ninagawa


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