蜷川有紀絵画展
『薔薇のおもちゃ箱』
会期/2016年6月15日 〜 6月21日
会場/渋谷Bunkamura Box Gallery
薔薇のおもちゃ箱をひっくり返してみた。
シッポのとれたぬいぐるみや
ドレスが擦り切れるまで可愛がったセルロイドのお人形。
積み上げてはバーンと崩して遊んだ積み木や
憧れに夢を膨らませた綺麗な千代紙の数々。
絵を描いていると子供の頃の記憶が蘇る。
知らぬまに大人になったわたしたち。
いまこの瞬間だけ、子供の頃にもどりたい。
2016年 薔薇の季節に
蜷川有紀
「薔薇のアンドロギュノス」「薔薇迷宮」の作品群をはじめ、
たくさんの新作ミニアチュールや、
「Androgynous−いつも一緒に−」をモチーフとした大倉陶園制作のカップ&ソーサー等を展覧。
会場内にて蜷川有紀の愛したアクセサリーやスカーフ、バッグやワインの蓋 etc.
を並べた”薔薇の蚤の市”も開催いたしました。
【PAINTINGS】
【DRAWINGS】
「美術家、蜷川有紀について」
以前ある雑誌のインタビューで学芸員として今後どんな作品が見たいか訊かれたことがあります。私は「見たことのない作品」と答えました。
至極当たり前に思われるかもしれませんが、今日の美術界では然に非ず。創造精神のない亜流や単なる売れ筋モチーフの氾濫。そこまで酷くないにしても、奇を衒らわない真の意味での独創的或いは新鮮な表現を目にするのはなかなか難しいものです。
そんななか蜷川有紀さんの作品との出会いは久しく感じていなかった驚きだったと言っても過言ではありません。
昨年末お邪魔した彼女のアトリエはまさに見たことのない独自の表現世界で埋め尽くされていたのです。
人物、花、街、自然など、それぞれを描いた作品もありしたが、女と薔薇とを主としながらも様々なモチーフが複雑に絡み、溶け合い一体となるかのような構成表現が彼女の真骨頂なのだと思いました。
ドリッピングや点描そして躍動的な線と線の交差による旋律。色は赤を基調とした作品が多く、日本画で用いられる岩絵具をメインにアクリル絵具、インク、パステルを織り混ぜて醸される澄明でなお深いその発色は彼女ならではでしょう。同時にこれら種類の違う絵具の素材感が同一画面上で、時には幾重にも重なり波打ちうねる絵肌の様はエロティックですらあります。
さてではこの世界感と独自の手法による絵画表現は何処から来るのでしょうか。
蜷川さんは、かつて美しくユニークな女優としてその才能を存分に発揮していました。そしてそのこと、つまりは映像表現者としてのバックグラウンドが作品のアイデンティティーの一部を形成していることは紛れもないことです。
優れた表現者というのは素材やメディアが異なっていても常に豊かな提示を世の中に遺すものです。同時に美術を出自とせず、この世界の様々な因習や既成概念に縛られなかったことも現在の彼女の表現を支えている要因だと私は思っています。
素材、技法も含め美術のあらゆる決まり事から自由である蜷川有紀という存在は新たな美術の可能性そのものではないでしょうか。「新しい」とは今まで存在せず明日に向かって必要とされるということです。美術の旧態を打ち破り新しい地平を拓く。
私は、美術家蜷川有紀のこれからの飛翔を心より期待してやみません。
佐藤美術館 学芸部長 立島 惠