蜷川有紀展『薔薇の神曲Ⅱ』

 

Yuki Ninagawa Exhibition

La Divina Commedia della RosaⅡ 

 

『魂の巡礼者』 YUKI NINAGAWA H3m×W6m 和紙、岩絵具 2022

 

2022年11月1日(火)〜12日(土)
(会期中無休)

於:吉井画廊   
〒104-0061 東京都中央区銀座8-4-25 
営業時間 平日:10:0019:00
日曜
&祭日:11:0018:00

蜷川有紀 在廊予定
連日 14:00~17:00
(*初日、土、日曜、祭日、最終日は18:00まで在廊)


 English Page

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蜷川有紀が描くダンテ『神曲』-煉獄篇-をテーマにした
H3m×W6mの超大作 「魂の巡礼者」がついに完成しました!

2017 年に発表した -地獄篇-をテーマにした「薔薇のインフェルノ」は、
その大きさと緻密さで多くの観客を魅了しました。 
また、プロジェクション・マッピングや人工知能シェフワトソンのレシピで
ダンテの世界を表現し、 アートイベントとしても異例の成功をおさめました。

 

あれから未曾有の災難が全世界を覆い尽くし
発表の機会を逸しておりましたが、
ようやくこの秋ご覧いただける運びとなりました。

 

今回の作品は、この世とあの世をつなぐ不思議な場所《煉獄》を
群青を基調とした岩絵具の濃淡で描き上げました。
神秘的な山々と生前になすべきことを何もしないかった魂が
苦しみながらも浄化されていく旅路をぜひご高覧ください。

 

「煉獄篇」をいかに表象するかー「薔薇の画家」の新たな進境

谷川渥(美学者)

 

 『神曲』のなかでもキリスト教的イデオロギーの
もっとも鮮明な「煉獄篇」をどう視覚化するか。
「七つの大罪」PeccatiをあらわすPの七文字を付けられた
ダンテが煉獄山の階梯を登るごとに
一つひとつその文字を消され、山の頂きに至って「浄罪」が完成し、
そこで導きの人ウェルギリウスは退き、
最愛の人ベアトリーチェの登場となるわけだが、
この宗教的倫理的な物語を、
「薔薇の画家」蜷川有紀はどんなふうに二次元化するのだろうか。

 

「地獄篇」を、かつて彼女は驚くべきことに
「薔薇のインフェルノ」として表象した。

 

地獄さえも無数の薔薇によって構成されていたのである。
しかし今回彼女は「薔薇」の表象をいっさい封印し、
そして赤い色を極力抑えて、岩絵具の群青の際立つ
煉獄山の壮大な姿を浮かび上がらせた。

ここに私は「薔薇の画家」の新たな進境を感じずにはいられない。
彼女は煉獄山を登るダンテのように
画家として一つの階梯を登ったのではあるまいか。

 

この鮮烈な群青の世界に身を委ねながら、
われわれはまた来たるべき
「天国篇」を予感することになるかもしれない。

 

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ダンテ神曲煉獄篇と、蜷川有紀の創作について   

田中久美子(文星芸術大学学長・美術史家)

 

紅辰砂の薔薇が渦巻く《地獄篇》に続いて、
群青が蠢く大作《煉獄編》が完成した。

 

リストの幻想的なピアノ曲「ダンテを読んで」が響き始めると、
何も描かれていない和紙の上で蜷川有紀の身体がうねり始める。
《煉獄篇》のキック・オフである。
群青が画面に飛び散り、川となる。
それを竹箒でざわざわと履き散らす。
突然、跪き、手で群青を和紙に押し付け、叩くように引き延ばす。
再び、歩きまわり、群青を垂らし、まき散らし、撫でまわす。
酔いしれるような蜷川の身体の動きに
共振し、群青が揺らぎ、蠢き、
「煉獄」が無定形な姿を浮かび上がらせてゆく。
彼女は演じるように描き、
群青に染まった蠢く画面は彼女の身体の動きの痕跡なのである。

 

「煉獄」は地獄と天国の間にあり、罪を悔い改め、
天国へと上昇するための魂の浄罪の場である。
地獄や天国とは異なり、ダンテよりわずかに
100年ほど前に誕生したカトリック教会の概念である。
「煉獄」は「七つの大罪」に対応した七つの環道から構成される山である。
そこでは「傲慢」「嫉妬」「憤怒」「怠惰」「貪欲」「貪食」「淫欲」の罪を
犯した者たちが浄罪の旅を続ける。
重い石を背負い、這うように歩む「傲慢」の罪人たち、
休むことを許されず走り回る「怠惰」、
静かに立ちすくむ「貪欲」たちのシルエット、
燃え盛る猛火に襲われる「淫欲」の罪人たち、
「嫉妬」の罪で縫い合わされた瞳が
青い涙を流しているかに見える女たちの顔が
幾重にも連なり環道を埋め尽くす。
蠢く罪人たちが頂上を目指し、「煉獄山」をめぐって渦を描く。

 

蜷川の「煉獄山」は静かで深い群青で覆いつくされる。
藍銅鉱(アズライト)を原料とする
深く強い青の美しさが古来より愛された群青は、
宇宙の色であり、浄化の色、夜明けの色である。
罪人たちの呻きは、救済を求める切実な願いの声となり、
罪人たちの蠢きは浄罪を求める魂の巡礼の旅となり私たちの眼前に展開する。
「煉獄山」は希望となる。

 

 


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