あれからずいぶん年月がたった。  「EX-FAN DES SIXTIES」そう、これが私がはじめて手にしたあ なたのLPだ。それからセルジュ・ゲンズブールとのあのセンセー ショナルなデュエットがおさめられている「JE T'AIME MOI NON PULUS」、そして最高傑作「BABY ALONE IN BABYLONE」.......。 どのジャケットのあなたもクリムトが描いたダナエのように美しく エロティックだ。
 '92のセルジュ・ゲンズブール追悼コンサートではTシャツにGパ ンでほとんどノーメイク、短く切った髪が痛々しかった。
 それから「ダディー・ノスタルジー」「アニエス・Vによるジェ ーン・B」など比較的最近の映画の中のあなたは無造作であらゆる 囚われから解放されたかのようにナチュラルで素敵だ。
 ジェーン・B.......あなたはいつだって愛に対して大胆で、しなや かにモラルを超越してしまう。映画の中でも、歌の中でも、そして 私生活でも....。モラルに疑問をもち、それを超越するという行為は ある種の苦しみや闘いを伴うのが普通なのに、あなたの場合は「自 然にしていたらこうなってしまったのよ」 という声が聞こえてきそ うなほど、およそ闘いというものを感じさせない。それは、あなた のキャラクターのせいなのか?あるいは、あなたが本当の妖精だか らなのか?どちらにしてもそんな風にモラルをしなやかに越えられ てしまうあなたに、私は敬服しないではいられない。
 『人間がもうひとりの人間に与えられる最大の贈り物は無償の時 間だと思う。』とあなたは最近のインタビューで答えている。そし て、女性の素晴らしいところは『苦しみを引き受けること』だとも。 この言葉はまぎれもなく、あなたが真剣に人を愛し、人生という闘 いを闘い抜き、同時にその時間の積み重ねは、ある種の愉悦を伴っ ていたことの証ではないかと私は思う。
 ミニスカートの似合うイギリス人の女の子から、奴隷のように従 順でエロティックな妖精へ、そして、それぞれに父親の違う三人の 娘を育てる母親で、なおかつフラジャイルな魅力をたたえ続けてい る女優、ジェーン・バーキン。 あなたのメタモルフォーゼを私は 驚きと憧れをもって享受しています。
今までも、そしてこれからも........永遠に。




 ___20世紀最後の夏に

蜷川有紀